「大切な人を守る光」
江東区在住 母 能子/息子 辰悟
夫に先立たれ、この家に一人で暮らすようになって
今年でちょうど10年になる。
二人の息子たちはそれぞれ家庭を持ち、仕事に励み元気でやっているが、環境も変わり、なかなか会える機会がない。

色々気を使いながら、思い切って電話をしてみても、早々に切られてしまう。
忙しいのだろう、しかたがない。忙しいのは良いことだ。と自分を納得させる。
家に居るときは、静かになってしまうと寂しいのでずっとテレビをつけている。
コメンテーターの話に、相槌をうったり返事をしたりしてしまうこともある。

テレビを見ていると、自然災害のニュースが多い。
新聞でも、大雨による氾濫・土砂崩れ・大規模停電の記事。

長く生きてきたが、こんなに頻繁に記録的豪雨に直面することはなかった。
この家もかなりの年数が経っているので毎回不安になる。
夫が元気で居る頃は、全く心配がなかった。

何でも自分で対応し、解決してしまう人だった。
手先が器用で何でも自分で直してしまう人だった。
毎日機械を覗き込むときに使っていた懐中電灯を
停電のときや夜中に大きな音がしたときにも使っていた。
あれは、どこにいったのだろう。

そういえば、家には今懐中電灯が無い。
ニュースでは週末に台風が上陸すると言っていた。
大きな渦とその動きが画面に映し出されていた。

停電にでもなったら、どうしよう。
懐中電灯、近くだとどこで買えるだろうか。
今はどういうものがあって、どれが良いのか。こういうことに詳しい次男に電話したいが、今は忙しいか、仕事の邪魔にならないか。

そんなことを考えていると宅配便で荷物が届いた。次男からだ。

箱を開けると、ライトと防災グッズ一式が入っていた。
荷物が届いて暫くすると、次男から電話があった。
送ってくれた物についてと、ライトの使い方を説明してくれた。

言われたとおりにスイッチを入れると、ライトの大きさからは想像できない強い光だった。

電気を消した部屋が、眩しいくらいに明るい。

最近のライトはこんなに明るいものかと驚いていると、
電話口の次男は喜んでいた。
ちょうど相談をしようと思っていた、と次男に伝えると、
そう思って送ったんだと調子の良い感じで答えられてしまったが、気にかけてくれたことが心から嬉しかった。

荷物を全て箱から出すと、底の方に封筒が入っていて、
保証書か何かかとライトで照らして確認した。

中身は、孫の描いた絵が添えられたメッセージカードで、HAPPY BIRTH DAYと書かれていた。

ライトの明かりで、可愛い文字で書かれたメッセージを読み、その明かりでバッグの中のハンカチを探した。
母からの電話はいつもタイミングが悪い。
その上話すことを準備しているからか、全てを話そうとしてくるので長くなることが多い。

聞いてあげたいのはやまやまだが、どうしても「忙しいからまたあとで」と途中で電話を切ることになり、仕事に追われてかけ直すことも先送りされてしまう。 「あらそう。ごめんね。またかけるね。」と寂しそうな声が耳に残る。
電話を切るとスマートフォンにニュースの通知が入った。
今日も夕方から雷雨になり週末には台風が上陸する。今回も地域によっては避難が必要な警戒レベルのようだ。

前回の記録的大雨の時、友人のマンションも地下にある配電盤に浸水し停電になった。

ネットのニュースでは、台風のニュースとともに、洪水で取り残され救助される女性の写真が載っていた。

実家で一人で暮らす母は大丈夫だろうか。
父が居た頃は何も心配なかった。
子供の頃、台風で実家の屋根の排水が壊れて天井から雨漏りした際も、父はいつも使っているライトと工具を持って天井に登り、あっという間に直してしまった。

そんな父が誇らしかった。
父が他界する直前まで仕事で使っていたライトは、ずっと預かっている。
そのライトをつけると真面目で仕事にひたむきだった父を思い出し、背筋が伸びる。
そんな頼れる父がいなくなって10年経つが、変わらず実家で一人で暮らしている母は、さぞ心細いだろうなと、改めて考えてしまう。
父から受け継いだバトンを手に、母にしてあげられることを考え、ライトと防災グッズを送ることにした。
父の使っていたライトはGENTOSのものだった。

オフィシャルサイトを見るとヘッドライトやランタンなど様々なライトがあり種類の豊富さに驚いた。

調べるとすぐに、父のライトの後継機種が見つかった。
父が愛用していたモデルは今でも人気のシリーズのようで、なんだか嬉しかった。

母に贈るものと、同じものをうちにも買うことにした。
購入したライトはすぐに自宅に届いた。
部屋の電気を消してライトを試すと、力強い光が壁を照らした。

「なにそれ!」と好奇心いっぱいに手をのばしてくる娘に、ライトの使い方を教えた。

この子も、このライトを持っていくかな。その前に自分はこの子にとって誇らしい父親になれるだろうか。

色々な思いがめぐる中で、家族を大切に思う気持ちに留まり、父も自分に対してこんな風に思ってくれていたんだなと、改めて感じることが出来て涙が出てきた。
母への贈り物は娘と一緒に用意した。

荷物を送った直後から娘が「もう届いたかな?」と繰り返し聞いてくるので、降参し一緒に電話をした。

丁度荷物が届いたところだったようで、不安そうな声が聞き取れたので、同じものを手に取り母にライトの使い方を易しく説明した。
電話口からは、光の明るさに驚いた声が聞こえ、娘に代わった後は泣いているようだった。

台風が過ぎた来週の母の誕生日に、家族みんなで実家に遊びに行くことを伝えた。
大切な人を守るGENTOSの光